今回は「エルヴィンの葛藤」、「エルヴィンは何故笑ったのか?」、「エルヴィンとリヴァイの関係」、「死の間際で出た本音」などエルヴィンの本質、そしてリヴァイがエルヴィンに対してどう思っていたのか?を、作者の諫山創さんのインタビューを元に解説していきます。
今回の話は進撃の巨人22巻、アニメSeason3までのネタバレを含みますのでご注意ください。
また画像は『進撃の巨人』(諫山創, 講談社)より引用しています。
それでは解説していきます。
この記事の目次
エルヴィンとは?生涯から考える
まず最初、エルヴィンの生涯について簡単におさらいします。
彼の人生に大きな影響を与えたのは「父親の仮説」です。
エルヴィンの父親は教員です。
ある日、「王政の配布する歴史書の矛盾」に関する仮説を父親から聞きました。
その話を外でした結果、父親は王政に殺されます。
そこで彼は、自分の愚かさを悔いて
人生の使命は「父親の仮説を証明することになった」と語ります。
ちなみにその仮説とは「今から107年前、この壁に逃げ込んだ当時の人類は王によって統治しやすいように、記憶を改ざんされたのです」というものです。
当時は正直突拍子もないように思えた内容でしたが、結果的に、この仮説はほぼ正しかったことが分かります。
そしてエルヴィンは、「真実を知りたい」という無邪気な動機と、父が死ぬきっかけを作ったことに対する贖罪意識から、調査兵団に入ります。
調査兵団に入って、エルヴィンは気づきます。
「他の人々は、人類のために戦っている。しかし私だけが自分のために戦っている」と。
プライベートな目的を叶えるために動いていたのに、いつの間にか調査兵団の頂点に立ってしまいます。
そして、部下にあれこれ命令する立場になり、彼は自分自身・そして仲間たちを「人類の未来のため」という偽りの目的で騙し続けます。
実は彼はずっと葛藤や悩みを抱えながら、調査兵団の中で生きていました。
諫山創先生いわく、エルヴィンは「夢を追う子供の自分」と「責任ある大人としての自分」の間で揺れ動いていました。
とはいえ、読者からすると、そんなエルヴィンの内面はなかなか分からなかった。
調査兵団のトップでもあり、女型の巨人捕獲計画の時に、アルミンが言ったセリフが印象的です。
エルヴィンを想像しながら「何かを変えることのできる人間がいるとすれば、その人は、きっと…大事なものを捨てることができる人だ」と語っていました。
エルヴィンの笑いの正体(笑みの理由)は?
そんなエルヴィンの内面が徐々に見えてきたのが、進撃の巨人単行本13巻で、報告を受けるシーンです。
ラガコ村の人々が巨人に変えられたことを知ってエルヴィンが笑みを浮かべましたよね。
あの「笑いの正体」は何か?
読んだだけだとわからなかったのですが、諫山創先生が答えを言っていました。
あれは、エルヴィンにとって「自分の想像通りだったじゃないか」という納得の笑みだったようです。
そしてここから先「エルヴィン」を語る上では、彼と対等な関係だったリヴァイから見たエルヴィン像について考えるのが一番わかり易いです。
リヴァイから見たエルヴィンの姿
そもそもリヴァイにとって、エルヴィンとはどんな存在だったのか?
ネタバレを避けるため詳細は割愛しますが、彼らの出会いは「スピンオフ作品、悔いなき選択」に描かれています。
地下街で暮らしていたリヴァイをエルヴィンは調査兵団にスカウトするという内容です。
ポイントは、リヴァイはこのときからエルヴィンを「信頼」し始めていたんですね。
なぜリヴァイはエルヴィンを信頼していたのか?
諫山創先生いわく「人類の未来のため、という目的を、自分が想像もしなかった利他的な行動ととらえて、自分自身の生きる使命としたから」です。
だから、エルヴィンに求めていたのは「使命に忠実」かつ「冷静な判断ができる」人物像を求めていました。
しかしそこにきて「先ほどの笑い」で、なんだこいつは?ってなったんですね。
「一緒に人類を救おう!」って言っていたのに、「言ってること違うじゃん!」ってなったと。
この時点でリヴァイの心境としては「隠していたな…」という思いだったと諫山創先生は後に語っています。
更には、言葉こそ発していませんが、エルヴィンの2回目の笑い、というか、ピクシス司令の言葉「シガンシナの地下室に君の望む宝が眠っていることを祈っているよ」にもリヴァイは反応しています。
で、リヴァイははっぱをかけるんですね
エルヴィンが巨人化の薬をリヴァイにたくして「君が決めることになる、任せてもいいか?」と質問する。
それに対するリヴァイの答えは「はい」「いいえ」ではなく、
「お前の夢ってのがかなったら…その後はどうする」と聞く。
エルヴィンは「叶ってみないとわからない」と発言します。
で一旦「そうか わかった 了解だ」と返す。
そして、グリシャの秘密が、シガンシナの地下室にあることが確実になったタイミングで、またしてもリヴァイとエルヴィン二人の会話です。
リヴァイは、腕がないエルヴィンに「現場に出るな」と言います。
しかしエルヴィンは「私がやらなければ成功率が下がる」と言って、現場に出ようとする。
ここからが面白いところで、リヴァイは「俺に建前を使うな」と言うんですね。
そしてエルヴィンは「人類の勝利より、自分が真実が明らかになる瞬間に立ち会うこと」、つまり「地下室に自分が言って、世界の秘密を確かめること」が大切だと語り、何が何でも作戦の指揮を執るという態度を示します。
このときのリヴァイの心の動きに関しては、諫山創先生が解説していて、
「しだいに諦めていったというか…。不信感を抱くというよりも、得体のしれない、自分を上回る存在だと思っていたエルヴィンがまだよくわからないながらも、実は子供じみた動機で動いていたと知って、しょうがなから協力してやろう」という気になっていたそうです。
リヴァイ「エルヴィン、お前の判断を信じよう」
そして最後に、リヴァイは「エルヴィン…お前の判断を信じよう」と語るんですね。
ここだけリヴァイの「お前を信じよう」の意味が今までと違います。
例えば、女型の巨人捕獲作戦のときは、部下と合流しようとするリヴァイにエルヴィンは立体機動装置のガスと刃を補充してから行くように命じます。
時間が惜しいと断るリヴァイに対して「命令だ」とエルヴィンは言います。
それに対して「了解だエルヴィン、お前の判断を信じよう」とリヴァイは語っていました。
これはもともとリヴァイがエルヴィンに持っていた「使命に忠実」かつ「冷静な判断ができる」男への信頼からでた言葉です。
一方で「この世の真実が明らかになる瞬間には私が立ち会わなければならない」に対する「お前を信じよう」は意味が変わってきます。
諫山創先生いわく「何が起きてもお前の責任だぞ」という怒りが込められていたそうです。
会話の上では、二人のセリフは変わっていないのに、こうも意味が違うって面白くないですかね?
進撃の巨人はこんな風に「発言」の裏に様々な意図があるのが面白さの理由だと思います。
エルヴィンの死・絶体絶命の場面
そして、なんといってもエルヴィンとリヴァイの一番胸熱なシーンは、獣の巨人に追い詰められて絶体絶命の場面ですね。
エルヴィンは窮地を脱して獣の巨人を倒せる作戦を思いついていながらも、黙っていました。
しかし、リヴァイに尋ねられ「他の兵士と一緒に特攻して獣の巨人の気をそらす」作戦を提案します。
それと同時に「この作戦をしたら私はまっさきに死ぬ、地下室に何があるのか知ることもなくな」と語ります。
これにはリヴァイも「は?」ですよ。
そりゃあそうなりますよね。
そしてエルヴィンはため息を付いて「俺はこのまま地下室に行きたい」「答え合わせをしたい」と語ります。
ここでエルヴィンは、初めて弱音、本音を吐きます。
このシーンについて諌山先生は「死ぬ間際に人間の本性が明らかになる」という考えで描いたと言っています。
つまり、エルヴィンは「地下室で夢を叶える」か「獣の巨人と最後まで戦う責任をまっとうする」かの2つの道で迷うんですね。
「夢を追う子供の自分」と「責任ある大人としての自分」の間で最後まで揺れ動いていたんですね。
自分の人生をかけた使命である「世界の謎」を知りたいという気持ちがずっと彼を動かしてきた。
一方で、自分を騙し他人を騙し積み上げてきた仲間たちの屍が自分を見ているような気がする。
エルヴィンがもう人生究極の選択をする場面ですよ。
そこで彼がどうしたのか、リヴァイの方をひと目見たんですね。
リヴァイがエルヴィンを信頼していたように、エルヴィンもリヴァイを信頼していた、二人の関係がここに垣間見えます。
そして、エルヴィンの無言の訴え、気持ちをリヴァイは察したんです。
「夢を諦めて死んでくれ、と言って欲しい」
そんな風に訴えられたと感じたんですね。
背中を押してくれと願うエルヴィンの気持ちが非常に切ない。
リヴァイはリヴァイで、エルヴィンに生きててほしいという感情はありつつも、彼の本当の気持ちを汲み取るのがエルヴィンのためだと感じていたんだと思います。
自分一人では白夜まで見てもエルヴィンとリヴァイの会話から関係性や想いを読み解く事が全く出来なかったです。104期(エレンは別として)もそれぞれ抱えてるものは大きいだろうけど、幹部組は想像を超えてますね。リヴァイは人類最強だけどメンタルもあんなに強く持てるなんて…調査兵団の仲間たちがそうさせたんでしょうか。弱音を吐いたこと、弱気になった事って無いですよね。そしてあの最新話見たら、応援したい気持ちとエルヴィンたちに会わせてあげたいとか色んな気持ちが湧いています。タキさんのおかげでキャラへの理解が深まり、だからこそ辛いけど楽しんでます。動画も全て拝見してますが、自分は文字で読む方が心にずっしりきました。かなり賢いですよね。解説って難しいと思うんですが非常に分かりやすいです。応援してますありがとうございました!
建前はミケも気づいてたのが面白いですよね。 エルヴィンと長く付き合っている人にはバレてる。
そうか!あのミケの発言に疑問を持ったのを思い出しました!あんな前の回だったのに!ココで伏線回収されるとは、シビレました!ありがとうございます!
解説ありがとうございます。諫山先生の考えはどちらから引用されたのか教えていただけますでしょうか。
エルヴィンとリヴァイの関係性は「リヴァイ本人も説明する気がないししても理解されないと思っている」「もちろん友情だけではない(総監督)」ものであるほか、リヴァイが女性に性的な興味をもつ可能性は作者に否定されていますよね。
エルヴィンとリヴァイを作者のメタな事情で同時期に無力化しないとならない進撃の巨人という作品においては、エルヴィンとリヴァイの間に夫婦のような愛があったことに気づいた人が正解なんでしょう。
男キャラ同士だから恋愛だと思いたくない、友情だと思いたい頭の硬い人は考察で的をはずすんだなーと思いました。
あしたのジョーの昔からマガジンは同性愛者の文化人と一緒に少年マンガを売り込んできたしそっちが日本の少年雑誌の伝統なので、男女にこだわるなんてありえないけどね。
エルヴィンが右腕を失ってもミケや部下たちを亡くしても、最後は命に代えてもリヴァイを温存した事実。
アニメやマンガでも、自由に歩ける公式ゲームでもリヴァイの個室が存在せず、先生の発言を考えても同室で暮らしている事実。
エルヴィンの次の団長にもしリヴァイが協力していれば、調査兵団に離反者が続出する展開が有り得なかった事実。
エルヴィンの命令でなら甘んじて温存されたリヴァイが、エルヴィンとの誓いのためなら重傷でも、他の仲間を犠牲にしてでも戦い続けた事実。
エルヴィンの死後も寝ても覚めてもエルヴィンを思い続けているリヴァイのショートストーリーを思い出します。
リヴァイの愛情を公式関係者が多く語っているエルヴィン。
進撃の巨人の考察をされるなら、読むと良いですよタキさんも。
「仮設」…っていうのずっと間違ってませんか?仮説では???