進撃の巨人はなぜ成功したか?
諫山創先生の才能はもちろん、担当編集バックさん(川窪慎太郎)の力も大きかったように思えます。
今回はバックさんのインタビューなどから「バックさんの正体」と「進撃の巨人に関する思い・発言」をまとめます。
この記事の目次
進撃の巨人の担当編集バック(川窪慎太郎)さんとは?
川窪慎太郎さん(通称「バックさん」)の基本情報は以下の通り
- 1982年生まれ
- 東京大学経済学部卒
- 2006年に講談社入社
- 「進撃の巨人」担当編集者
- 既婚
そうだ、昨日の別ナマ放送中のコメントにも少しあったので。いやもう本当、担当作にも何にも関係ない話なんで(鹿島の話だって関係ないか)これは疎遠になってる友達に向けてですが。楽しく元気に結婚してみました。楽しくて元気です。お祝いは振り込みで頼むぜ、うすい!
— 漫画編集者バック (@ShingekiKyojin) August 23, 2016
バックさんが講談社にはいった理由
東大卒エリートのバックさんがなぜ「出版社」に入ったのか?そのエピソードが面白いです。
東京大学経済学部出身の同氏は在学中、就活の時期に差し掛かり、周りが銀行など金融関係を志望先に挙げていくなかで、「僕はあまり働きたくなくて…」という理由から、「私服で通勤したい」「満員電車に乗らない(出勤時間が遅い)」「転勤がない」という条件が見合う企業を探した。証券会社でも転勤のない職種を選んだが、「その会社の人事部の方から電話がかかって来て『99%が女性だけど大丈夫?』と言われたり(笑)」。最終的に、3つの条件が揃っていた講談社を選んだ。
東大の経済だと、キャリア(国家公務員)や、メガバンク、商社、外資金融などにいく選択肢もあったはずです。しかし、そこで出版社を選んだのは、けっこう変わり者だったかもしれませんね。
そのおかげで諫山創先生と出会い「進撃の巨人」が世に生まれたのでこの選択には感謝です😁
バックさんと諫山創先生の出会い
バックさんの母校「東京大学」でのインタビュー記事(東大新聞オンライン)の中に、諫山創先生との出会いが語られていました。
諫山さんが新人のころに講談社に原稿を持ち込んできて、僕がその原稿を見たのが始まりですね。原稿から情念というか並々ならぬ思いが伝わってきて、目に留まりました。ただ絵や話の技術はまだまだだったので、2年間絵の練習をしてもらい、時々編集部に来てもらって助言をしました。
当初からその才能を見抜いていたそうです。しかもそれだけじゃなくて「大ヒットする」ことも予感していたという先見性。すごすぎる。
偉そうですが、実は『進撃の巨人』は売れると思っていて、連載前に諫山さんに初版100万部を目指そうと言いました。初版100万部は漫画では超人気作品です。諫山さんは驚きましたが、連載用のネームを読むととにかく面白かったのでいけると思いました。
バックさんが進撃の巨人で一番好きなキャラクターはアニ
――『進撃の巨人』で一番好きなシーンは何ですか アニ・レオンハートというキャラクターが、主人公のエレン・イェーガーたちに自分の正体を明かすシーンが好きですね。もともとアニはエレンたちの仲間でしたが、正体に気付かれます。するとアニは「全く傷つくよ」という言葉で告白し始めるんですが、それがかっこいい。アニはエレンの仲間を何人も殺したんですよね。そんな裏切り者なのに「全く傷つくよ」というセリフにしたのは驚きでしたね。
「なぜアニが好きなのか」という観点も、バックさんらしさが出ていて流石ですね。
このインタビューは2014年ごろの内容なので、現在に関してはまた好きなキャラクターが変わっているかもしれません。
進撃の巨人の編集者として意識していること
東大新聞オンラインのインタビューで興味深い内容がいくつかありましたので、紹介します。
『進撃の巨人』の作者の諫山創さんにも描きたいことがありますが、直接明言するのは気恥ずかしいと思っているようです。読者が自由に考えるべきだと。ただ、身近で接していて思うのは、漫画のセオリーを外そうとしていますね。例えば、他の少年漫画よりも残酷なシーンが多くあります。
諫山先生は漫画のセオリーを外そうとしているそうです。たしかに一話目の残酷描写からして、かなり際立っていましたからね…。
『進撃の巨人』を売り込む上で気を付けていることは、『進撃の巨人』を大衆化しすぎないことですね。連載はあと3、4年で終わる予定ですが、『進撃の巨人』は10年、いや50年語り継がれる作品だと思います。どこでも見られるようにすると、ただの消費財で終わってしまうのではないかと心配をしています。もちろん広く売り込むこととのバランスを取るのは悩ましいですけどね。
2014年の時点であと「3〜4年で終わる」と言っていますが、無事連載終了は伸びました(読者としては長く読めて嬉しいです笑)
実際、進撃の巨人がここまで「深く」愛されているのも、大衆化しない戦略を意識していたからこそなのでしょう。コラボに関しても以下のように「線引」をしっかりしているようです。
これは諫山さんも僕も一致した意見ですが、企業とのコラボをする線引きは、相手が『進撃の巨人』を面白がっているかです。ただ人気に乗っかるのではなく、キャラクターの性格や物語など作品を生かした企画ならば、コラボしています。
また他のインタビューでは「皆で作る」というのを意識的にやっているとう発言もしていました。
――『進撃の巨人』といえば、公式ファンサイト『みん撃』を立ち上げたり、さまざまな企業とコラボするなど、ユニークな施策でも知られますね。
“人の力は借りたほうがいい”というのが基本的な考え方なんですよね。で、どうせ借りるなら作品を愛してくれている人の力を借りたほうがいい。そういう意味で、読者の方を巻き込むのが一番パワーがあると考えています。たとえば、2012年に「キャッチコピー総選挙」という企画を実施したんですよ。「優秀作はポスターなどで採用するので、ぜひ『進撃の巨人』のキャッチコピーをTwitterで発表してください」と呼びかけました。今では似たような企画がたくさんありますが、当時はかなり珍しかったんじゃないかな。その企画を通して、読者の皆さんひとりひとりが宣伝部になってくださいました。
「人の力を借りる。できれば楽しんで力を貸してくれる人、つまりファンと一緒にやっていく」というのが、当初からの『進撃の巨人』の宣伝コンセプトです。
今でこそ当たり前に思えますが、進撃の巨人の初期(2010年代前半)においては、ネットを使った宣伝はそこまでメインではありませんでした。その当時から、作品を世に広めるためにネットを活用したのはマーケターとしても一流だなと気付かされます。
バックさんがキャラクターに対して思うこと
進撃の巨人が活きたキャラクターという感じがするのは、諫山先生はもちろんのこと、バックさんの意識もあったからのようです。
「読者がどう思うだろう?」というラインは常に話し合っていますが、僕は、「嘘はつかない」ということを大切にしています。「このキャラクターがここでNOと言ったほうが盛り上がるけど、こいつに今NOと言う理由はあるのか?」というように、ストーリーの都合でキャラクターを動かさないように意識しています。だから逆を言えば、そのキャラクターにとって真実ならば、やらざるをえないこともある。「キャラクターはそうするしかないと思っているのに、読者が望んでいないから止める」というのは、それは嘘じゃないですか。
バックさんが考える「進撃の巨人がヒットした理由」
川窪:『進撃の巨人』が世界中でヒットした理由は、扱っているテーマがシンプルで普遍的なものだからだと思うんですよね。壁の内側と外側があって、外側には立ち向かわなければならない圧倒的な敵がいる。しかし話が進むと、壁の内側にも敵がいることが分かったり、敵だと思っていたものが、実は敵とはいえなかったり…。こういう構造って、どんなものにも当てはめられるものだと思うんです。日本だけじゃなく世界中にあるものでもありますよね。だから、いろいろな国の人が、自分の置かれた状況と重ね合わせて、「ああ、分かる分かる」と読んでくれているのだと思いました。
勿論、作品のエンタメ的な面白さ、講談社とバックさんたちによるマーケティング戦略、時代に合っていたことなど様々な理由はあると思います。
しかしこういった「本質」に思えるようなことをバックさんが語っているのが印象的です。
就職したての新社会人にとっては「会社」が壁でしょうし、学生にとっては「学校」が壁の役割を果たすでしょう。
自分にとって「進撃の巨人の壁と巨人」に相当するものはなにか?という観点で考えてみると、作品をより深く感じられる気がします。
バックさんから見た諫山創先生の印象
いろいろなインタビューでこの点について触れられていました。もっとも近い存在のバックさんが語ると、諫山先生がどんな人物か見えてきて面白いです。
「出会った時からずっと、諫山さんは本当に謙虚で、低姿勢な男ですね」
他のインタビュー記事でも「謙虚」という言葉がよく飛び出しています。
謙虚で本当に立派な人です。諫山さんは講談社で栄養ドリンクを何本も飲んで夜遅くまでネームを執筆することもあります。それでも朝帰宅する時に深々と頭を下げて「遅くまで付き合ってくださりありがとうございました」と言ってくれるんですよ。
また、物語づくりに関しては「村上春樹」と重ねて諫山先生を分析しています。
川窪:村上さんは、物語をつくるために深く思考することを「井戸(穴)を掘る」というメタファーで表現されます。「地中深くまで潜っていくように考えを巡らせ、そこから汲み上げてきた物語を書くと、読者とつながれる」のだそう。
諫山さんがどこまでも深く物語を考え抜いている様子を見ていると、「ひょっとして、諫山さんはそれと近いところで作品づくりをしているのでは?」と思わされます。
バックさんが手掛ける作品まとめ
バックさんが手掛ける作品は「進撃の巨人」以外にも複数あります。
- 「五等分の花嫁」
- 「23区東京マジョ」
- 「ふらいんぐうぃっち」
- 「復讐の教科書」
- 「それでも僕は君が好き」
- 「君が死ぬ夏に」
- 「将来的に死んでくれ」